近代本願寺論の展開

全1巻

【著者】
中西直樹(龍谷大学教授)

体裁/A5判、上製、278頁
定価/本体3,800円+税
ISBN/978-4-86691-265-3
刊行/2020年11月

本の内容

 明治期には、宗派改革に向けた論議が活発に行なわれ、多様な本願寺論が提起された。多くの篤信の門徒を抱える両本願寺では、在家信者も改革運動に参加した。ところが明治後期になると、その改革運動は、宗政当局者の圧力と切り崩しによって挫折し、そのことは、今日ほとんど知られていない。明治初年にはじまる本願寺改革とその挫折とは、その後の宗派の方向性を決定づけるものであり、そこで提起された諸課題は、今日において宗派組織を再考する上でも、重要な意味を有していると考えられる。
 本書では、近代本願寺の改革論や在家信者の動向に関する五編の論文を収めた。さらに最後の第六章には、一八九七(明治三十)年に本願寺派末寺僧が本山内部の腐敗を告発して刊行した『暗黒本願寺論』を復刻し解題を付した。
 以上の構成により、明治期における本願寺論展開の過程を検証することを通じて、当時の議論が宗派組織のあり方の問題点にどこまで迫り、いかなる本願寺像を提示し得たか―、その一端を明らかにすることに努めた。(中西直樹)

【目次】

はしがき

第一章 明治前期本願寺派の宗派改革動向
はじめに
一、発足期における集会の動向
二、在家信者への取締強化
三、末寺僧侶の動向
四、旧秩序復活の傾向
五、寺法改正と本山集権体制の進行
六、執行公選をめぐる集会の論戦
七、宗派改革論の興隆
八、法主公選論と教会制移行止論
九、在家信者の意識変化
十、法主側の対応策
おわりに

第二章 本願寺派在家信者の動向
はじめに
一、松田甚左衛門と弘教講の結社
二、東移事件と公選議会開設
三、弘教講の解体
四、顕道学校開校に至る経緯
五、顕道学校の教育方針
六、松田甚左衛門の意識変化
七、小川宗の興起とその主張
八、小川宗への弾圧
おわりに

第三章 在家信者改革運動と挫折
はじめに
一、僧侶による財務執行の問題点
二、在家者の宗政参加論の興起
三、大谷派得明会の改革構想
四、大谷派白川党の興起
五、白川党にとっての門徒会議
六、大谷派改革運動の破綻
七、白川党の本願寺派への影響
八、本願寺派報恩同志会の運動
おわりに

第四章 西依一六と大谷派改革運動
はじめに
一、出生、経緯会の結成まで
二、『佛教』主筆就任、白川党支援へ
三、白川党支援活動の挫折
四、三次中学校教員時代
おわりに

第五章 家族国家観と旧秩序の復権
はじめに
一、日清戦争後の本願寺批判
二、法主授爵問題とその批判
三、本願寺批判論の隆盛
四、高楠順次郎と家族国家観
五、批判鎮静化と地方改良運動
おわりに

第六章 『暗黒本願寺論』(解説・復刻)

あとがき