2回配本

綜合諷刺雑誌「VAN」 【復刻版】

全9巻・別冊1
イヴニング・スター社 他発行〈1946年〜1949年〉

【解題】
石川巧(立教大学文学部教授)

体裁/B5判・並製・全29冊を9巻に合本
揃定価/79,200円(本体72,000円+税10%)
刊行年月/2022年12月~2023年6年

本の内容

刊行に際して 石川巧〈立教大学文学部教授〉

『VAN』は1946年5月に創刊された綜合風刺雑誌である。のちに日本のアイビー・ファッションの草分けとなる石津謙介のアパレル企業「VAN Jacket inc」にその名が引き継がれるこの雑誌は、美しい画像と斬新なデザイン性において他を圧倒するものだった。漫画、論説、読物を三本柱に構成された誌面には安定感があり、読み応えのある作品、記事が並んでいた。1949年9月の第4巻第3号まで、合計で29冊を世に送り出しているが、当時、雨後の筍のように氾濫した読物雑誌のなかでこれほど内容が一貫していてブレない編集体制を維持していた雑誌は他にない。
『VAN』を成功させた伊藤逸平(1912〜1992)は、写真評論家としても活躍した人物であり、戦前に最後まで残った写真雑誌『写真科学』の編集長だったことでも知られている。戦後は『CAMERA』(『写真科学』の後継誌として1946年1月に創刊)の編集を手がけるとともに漫画評論家の先駆者として活躍し、谷口六郎をはじめとする多くの書き手を育てている。『VAN』は、その伊藤が実業家・上村甚四郎のイヴニング・スター社と組み、豊富な資金と人脈を駆使して編集したものであった。
創刊号の巻頭に「――VAN創刊にあたり――私の言ひ度ひ事」を書いた上村は、諷刺は「正しい批評的態度」によって始めて力をもつと訴え、「〝VAN〟は政治、経済、社会の汎ゆる腐敗面に対する力を持つた注射、つまり現象の歴史的過程に対する追究を命ぜられた尖兵であり前衛であらねばならぬ」と訴えているが、その自負と責任感は記事の端々にあらわれている。
また、この時期のイヴニング・スター社は、『VAN』の他に『黒猫』『風刺文学』(のち『人間喜劇』に改題)、科学雑誌『ポピュラ・サイエンス』などを発行しており、銀座の交詢社ビル5階のオフィスには社員60名がいたというが、そうしたスケールメリットを活かし、作家、漫画家、文筆家はもちろんのこと写真家、デザイナーなどにも幅広い人脈をもっていた。そこから巣立っていった若き才能は、幅広い領域で活躍した。
この雑誌が復刻版として甦ることによって、戦後占領期における日本の芸術表現運動の実相が見えてくるはずである。

主要執筆者一覧

青野 季吉
赤松 俊子
秋好  聲
安西 冬衛
石川 欣一
伊藤 逸平
岩上 順一
上村甚四郎
瓜生 忠夫
江戸川乱歩
大下宇陀児
大槻 憲二
岡本  潤
小川  武
小野佐世男
風間 新人
加藤 芳郎
木々高太郎
久米 正雄
河野 鷹思
近藤日出造
今 日出海
坂口 安吾
里見  弴
佐野  学
式場隆三郎
獅子 文六
柴田錬三郎
高倉 テル
武谷 三男
田中 英光
谷内 六郎
徳永  直
堤  寒三
津村 秀夫
徳川 夢声
徳田 球一
永井 辰男
中島 健蔵
中野 好夫
新居  格
野坂 参三
鳩山 一郎
花森 安治
羽仁 五郎
平野義太郎
福原麟太郎
水谷  準
村山しげる
室伏 高信
八木 秀次
山之口 獏
横溝 正史
横山 泰三
横山 隆一
渡辺 一夫
渡辺紳一郎

配本概要

刊行年月収録原誌ISBN価格
第1回配本2022年12月第1巻~第4巻(1号~12号収録)978-4-86691-579-135,200円(本体32,000円+税10%)
第2回配本2023年7月第5巻~第9巻(13号~29号収録)+別冊1978-4-86691-580-744,000円(本体40,000円+税10%)